薄氷

 いつの間に降ったのか、周辺の低山がふわっと雪化粧しています。層雲峡に雪の便りはまだ届きません。
 黒岳6合目の登山道の水溜りに氷が張っていました。薄氷を見ると、ついパリンパリンと割ってみたくなるのですが、思いとどまりました。年輪のような渦模様を描くその端整なラインは、壊してしまうにはあまりにももったいない気がしたのです。
 自然がする仕事というのはどうしてこうも密かに大胆に美しいのでしょう。それは誰に見せようという意図もなく、だからこそいっそう美しく思えるのでしょうか。

 写真:粉雪をのせて(10/28

霜降(そうこう)

 これは昨夜の星空が置いていったのです。
 朝、目覚めると外は別世界になっていました。畑の取り残しの人参もヒメジオンの花も隣の屋根も、あらゆるものが霜の氷をつけて真っ白です。歩くたび長靴に触れるネコジャラシがしゃりんしゃりんと音を立てます。初めて見る景色でもないのに、初雪を迎えた朝のようにわくわくした気持ちになります。
 霜降りる頃、霜降を迎えました。これからはこんな幻想的な朝も日常となってしまうのです。

 写真:野原一面に降りた霜
(清川 10/25)

 【霜】霜は空気中の水蒸気が地物に接触して細かい氷を形成したもので、よく晴れた風のない夜に気温が氷点下に下がると出来ます。同じように、雪も空気中の水蒸気が昇華して出来た氷の結晶ですが、霜が地物に付着し成長するのに対し、雪の結晶は空気中に浮かんで成長します。
 (参考/雪の結晶)

カメムシ王国

 嗚呼、今年もやっぱり・・・。ため息がでる。カメムシの大群が今年もまたやって来た。とある昼下がり、壁という壁、窓という窓にびっちりへばりつき、隙あらば家の中へ侵入しようとカサカサうごめいている姿を目の当たりにしたときは恐怖さえ感じた。まるでヒッチコック映画だ。「カメムシ王国」というタイトルが頭に浮かぶ。
 カメムシと一口に言ってもその種類は非常に多く、層雲峡周辺でよく見るのはスコットカメムシという種類だ。夏の間はハンノキやミズナラなどの樹の汁を吸い、冬は集団で越冬する。そして、何と言ってもあの強烈なニオイ。あれがいけない。だがカメムシに悪気があろうはずもなく、結局まあこれはこれでとあきらめ、約7ヵ月ものあいだ共存の道を歩むことになるのだった。

星とニホンザリガニ

 紅葉谷もこのところの風雨に叩かれ、丸裸の山葡萄からはたわわに実った藍色の実が丸見えです。今日はニホンザリガニを探しに紅葉谷へ行きました。
 以前、護岸工事を行った沢におけるザリガニの生息状況を確認するのが目的です。その結果、今回下流域では確認できませんでしたが、上流部での生息を確認することができました。また、小さな個体が確認できたことで、繁殖がまずは行われているということがわかり少し安心。
 浅い水底にはカツラやイタヤカエデの葉がたくさん落ちていました。その黄色いイタヤカエデの葉の形がまるで星のようで、そういえば今日はオリオン座流星群が極大になる(と予想されている)んだっけと思い出し、この先も彼らの姿を見られることを心から願いました。

 写真:ニホンザリガニ
      (紅葉谷 10/21)

ラッティングコール

 「フィーヨー・・・フィヨーッ・・・」と、日も暮れた谷間を越えて今年もまたこの声が聞こえてきます。これは秋になり発情期に入ったエゾシカのオスが発する声で、なわばり主張や自己アピール等の意味があります。そしてこれがまた何とも言えず物悲しげで、秋の深まりというより冬の始まりを連想させるような声なのです。
 他のオスとのなわばり争いに勝ったのでしょうか?それとも幾度かの争いに興奮しているのでしょうか?勇ましくも哀愁漂う鳴き声が一日の終わりとともに夜に吸い込まれていくようでした。

 写真:エゾシカ(メス)
      紅葉谷 10/18