登山トンボ

 わずか15分の帰りのリフト、冷たい霧雲に囲まれすっかり冷え切ってしまいました。でもさすがに心得たもので、黒岳ロープウェイの7合目駅舎には世間の季節を無視するかのようにストーブがゴーゴーと勢いよく焚かれ、冷えた体にはその温かさが嬉しく。ストーブ!つい一昨日までの閉口するような暑さが嘘のようです。
 視界を隠す霧雲も、9合目まで登ると雲海となって眼下に広がり山頂は晴天。稜線にはまばらに行き交うトンボの姿。麓からわざわざ避暑のためにやって来たアキアカネです。(いわゆる赤トンボ)じつはこの避暑移動には大きな理由があります。
 それは性成熟を秋まで遅らせること。アキアカネは秋に繁殖し、卵で冬を越します。けれど夏に羽化した成虫があまりに早く産卵しすぎると、冬が来る前に発生がすすみ幼虫になってしまいます。それを避けるために涼しい高山帯で夏を過ごし、生殖休眠をするのだそうです。
 そして成熟した赤トンボが山を降りていく頃、山には紅葉の季節が近づいてきます。それは、もう間もなくのこと。

 写真:アキアカネとチシマアザミ(黒岳8/17)

3度目の登場です。クモイリンドウ

 朝からいつものキレが全くない職員のK氏。聞けば昨日の山での日焼けがヒリヒリ痛み、おかげで寝返りも儘ならずまんじりとした夜だったとか。
 日焼けの理由はクモイリンドウ。赤岳山頂から小泉平、緑岳山頂付近にかけても見ることが出来ますが、集中的に株がたくさんあるのはやはり白雲小屋。写真は小屋一大きな株で、ざっとその花数40個!センターに勤務する以前、10年近く白雲小屋の管理人を務めていたK氏も、自分が知っているこれまでの中でいちばん花つきがいいと真っ赤な顔で証言。
 先の雨で花が痛んでしまったかと心配していましたが無事でした。今週末までは見頃です。

 写真:クモイリンドウ(白雲小屋8/13)
    後ろはトムラウシ山

ラスト花畑

 最高気温29℃。層雲峡は今年一番の暑さとなりました。え~29℃で一番の暑さ?と言われそうですが、標高約660mにある層雲峡は夏は涼しく冬は極寒。そして本日しばらくぶりにムシッと晴れ渡る空が広がり、今までこんなに暑いと感じたことがないくらい暑かった山の一日が、生温い空気を残してやっと暮れていこうとしています。ヤレヤレ。
 さて、バテ気味の登りで救いとなったのが緑岳第2花畑先のチングルマやエゾコザクラの群落。こんなに真新しい花が残っているとは思ってもいませんでした。花が終わり綿毛姿になったチングルマもフワフワキラキラと光に反射していて良かったのですが、今回の写真は今年ラストのお花畑風景にしました。今週末まで咲いていてくれるでしょうか?

 写真:緑岳第2花畑先(8/13)
    チングルマとアオノツガザクラ群落

これが水源

 雨後6日ぶりの黒岳です。すぐ上に青空が広がっているのはわかっているのだけれど、流れ続ける雲がわずかに開いた空の隙間を瞬時に隠してしまい、スキッとした天気は結局今日も望めませんでした。
 8月半ば、雨云々よりも時季も時季。案の定、山頂は花の姿もごくまばらで、イワギキョウの清楚なブルーの他は、雨に打たれ続けたイワブクロがかろうじて少々の花を残すぐらい。それでもお盆休みということもあって登山者も多く、石室の休憩スペースもいっぱい。何気なく石室売店に置かれたケースを覗くと、中には保冷材代わりに雪が投入されていて、よ~く冷えた缶ビールやペットボトルが並んでいました。
 今年は、石室の飲料水源となる周辺の雪渓が豊富で、9月も水が枯れずに済みそうかなと管理人の方曰く。確かに春先の石室周辺の雪の多さにはびっくりしていたっけ。おかげでこの時季でもエゾノツガザクラの群落に出会うことができました。

 写真:水源の雪渓とエゾノツガザクラ
    (ポン黒岳の下で8/12)

ワタシ光合成シマセン。

 続く雨、幾重もの灰色雲に覆われ山の頂も見えない毎日は、空気まで重たく感じます。
 湿度90%。笹が覆う薄暗い林床でヘンな植物を見つけました。全身は黄褐色、植物には欠かせない緑の葉もありませんし、花だって「コレが花?」というような風体。
 「シャクジョウソウ」という名のこの植物は、植物でありながら植物とは違った生き方をしています。光合成はせず自分では栄養をつくりません。代わりに自分の根に菌類を住まわせ、その菌類を介し一方的に栄養をもらっている腐生植物です。
 じつは、植物と菌類の関係はとても古く、かつて植物が水中から陸上に進出を始め、今こうして森をつくるまでに分布を広げることが出来たのも、栄養のやり取りをする菌類の助けがあったから。
 ただしシャクジョウソウの場合は、またちょっと別。栄養の「取り」はしますが「やり」はしませんから。かなりちゃっかりです。

 写真:シャクジョウソウ(層雲峡8/10)
    漢字で書くと「錫杖草」