黒岳へ

 (*前回つづき)
 5合目リフトは今月末まで運休中なので、ここから先は自分の足で。先週の低気圧、層雲峡でもあれだけ吹雪いたのだから、山はさぞや雪が深いだろうと覚悟していたのですが、びっくりしました。積もっていなかったのです。風が強すぎたのか、雪はみんな飛ばされてしまっていました。斜面に硬く浮き出た荒々しいシュカブラ(*)がそれを物語っていました。
 そしてもうひとつ驚いたのが積雪量そのものです。5合目の積雪計は150センチを指していましたが、これは昨年12月26日の積雪とほぼ同じです。山頂からポン黒岳にいたっては、12月の時点よりも雪が少ない。12月以降、思ったほど降雪がなかったことに加えて、ある程度晴天が続いて雪がぐっと締まったことも増えない積雪量の理由のようです。
 山の冬は長く、これから幾度も降雪を迎えることでしょう。多い少ないを言うにはまだ早いかもしれません。さて今年はどんな春がやって来るのでしょうか。

 (*)シュカブラ/風が雪面を削ってできる縞状の模様

 写真:黒岳石室(右・凌雲岳、左・北鎮岳 2/19)
    石室周辺の積雪も12月からあまり変化がない。

ダイタモンドダスト

 43日間の整備期間を終え、黒岳ロープウェイが先週土曜から運行を再開しました。
 氷点下20℃。眼下に広がるダケカンバの森には真っ白な霜が降りました。まるで珊瑚の海です。空気までキラキラしています。隣にいたK氏の袖をつつき「あれダイタモンドダストじゃない?」太陽の光がダケカンバをすり抜けて差し込むと、幾筋もの微細な氷の帯がキラキラと浮かび上がります。白い息を吐きながら窓の外の景色にじっとかじりついていた7分間でした。

 写真:樹霜とダイヤモンドダスト
     (黒岳5合目 2/19)

抜け殻



 真っ白い風がぐるぐると渦を巻きながら次々と通り過ぎて行きます。外に出るのも憚られるこんな日に、

   雨ニモマケズ
   風ニモマケズ
   雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
   丈夫ナ・・・蝉の抜け殻がありました。

        (「雨ニモマケズ」/宮沢賢治より)

「たまたま」が重なり・・

 黒岳がよく見えます。9合目マネキ岩の影までリアルに映り「おいで~おいで~」と手まねきしています。
 午前中はスノーシュートレッキングで大函へ行きました。そこで参加者のひとりが面白いものを見つけました。落ち葉が描いた円の軌跡です。たまたま落ちた枯葉の軸が、たまたま雪に刺さる格好になり、そこにたまたま風が吹いてたまたま葉っぱがクルクルと回転した。上手いなぁ。こういうのを‘自然のいたずら’というんですね。

 写真:「円」

ヤナギ

 いくら青空が力強く輝いても、冬の短い陽に凍った空気をとかしきるほどの威力はありません。桜の開花予想が発表されても春など先の先、まだまだ無縁だろうと背中を丸めていましたが、沢のほとりに銀色に膨らむヤナギの花穂を見つけました。
 春早くから開花を始めるヤナギはわずかな温度差にも敏感です。時期がきて、もういいかなと思えば大事に花芽をくるんでいた赤い芽鱗はするりとほどけ、柔らかな銀色の「猫」が現れます。