ワタシ光合成シマセン。

 続く雨、幾重もの灰色雲に覆われ山の頂も見えない毎日は、空気まで重たく感じます。
 湿度90%。笹が覆う薄暗い林床でヘンな植物を見つけました。全身は黄褐色、植物には欠かせない緑の葉もありませんし、花だって「コレが花?」というような風体。
 「シャクジョウソウ」という名のこの植物は、植物でありながら植物とは違った生き方をしています。光合成はせず自分では栄養をつくりません。代わりに自分の根に菌類を住まわせ、その菌類を介し一方的に栄養をもらっている腐生植物です。
 じつは、植物と菌類の関係はとても古く、かつて植物が水中から陸上に進出を始め、今こうして森をつくるまでに分布を広げることが出来たのも、栄養のやり取りをする菌類の助けがあったから。
 ただしシャクジョウソウの場合は、またちょっと別。栄養の「取り」はしますが「やり」はしませんから。かなりちゃっかりです。

 写真:シャクジョウソウ(層雲峡8/10)
    漢字で書くと「錫杖草」

国産タンポポ

2007年8月7日(その2)

 いまや日本在来のタンポポは希少な存在です。写真は綿毛姿のクモマタンポポ。高山に育つ生粋の日本のタンポポで、絶滅が危惧される種として指定されています。
 道端、空き地、はたまた庭の片隅にといたるところでごく普通に見られるタンポポはまず外来種のセイヨウタンポポで、たくましい繁殖力で増えています。大雪山でも忠別小屋周辺で靴底などに付着し運ばれたセイヨウタンポポの種が繁殖しているのが報告され、在来種との交雑も心配されています。

 写真:クモマタンポポ(8/6)
    赤と白が対照的です。

積極的な植物

 期待していたモウセンゴケの花。けれど霧雨の中ではどの花もぴたりと閉じたままでした。モウセンゴケは天気が悪いと花が開かず自家受粉をすると図鑑にはあります。
 沼ノ原湿原では、モウセンゴケとナガバノモウセンゴケの2種の食虫植物が見られ、7月末から8月上旬にかけて径1cmにも満たない可憐な白い花を咲かせます。食虫植物とはいえ、受粉のときはやはり虫たちに手伝ってもらいます。なんだか矛盾しているようですが。どちらにせよ、モウセンゴケにとって虫の来訪は大歓迎。そして当の虫たちは我が身を差し出す運命が待ち受けているとは思いもよらず。
 
 *沼ノ原登山道の丸木橋は雨の影響もなく健在。大沼幕営指定地は沼の水は引いていますが地面が湿ってやや沈む状態。

 *開花状況(沼ノ原湿原)
 タチギボウシ↑、ナガバノモウセンゴケ、モウセンゴケ、ミヤマリンドウ、ツルコケモモ、ウメバチソウ、ハクサンボウフウ

 写真:消化中。ナガバノモウセンゴケ
   (沼ノ原8/6)

クモイリンドウ

 一瞬で止むだろうとカッパを我慢したのが間違い。どうやら朝の天気予報は外れたらしいと、第2花畑を過ぎた辺りで確信し。
 さて、先週末は台風が近づき、蕾だったクモイリンドウのその後が気になっていましたが、白雲小屋や緑岳稜線で数株開花しておりました。今週末にかけて開花がすすみそうです。
 途切れることなく咲き続けていた稜線の最後の花。「咲いてしまったか」という気持ちも少し。蕾を眺めながら待つ楽しみがあったから。
  
 *最近の雨で高原温泉の林道状況が悪くなっています。そろばん状のガタガタ道、いたるところ穴だらけ。運転の際はご注意ください。

 *開花状況
 (緑岳第2花畑)アオノツガザクラ↑、エゾノツガザクラ、チングルマ↓/(緑岳山頂~小泉岳)クモイリンドウ↑、チシマギキョウ、リシリリンドウ/(白雲小屋~板垣新道)クモイリンドウ↑、トカチフウロ○、エゾツツジ、チシマクモマグサ

 写真:クモイリンドウ(緑岳山頂周辺8/6)
    今年の開花は8月4日頃でした。

大雨後の登山道

 層雲峡は午後から激しく雨が降り出しています。登山道の様子が気がかりです。
 先月28日の集中的な大雨の後は、登山道の侵食被害が複数の場所で見られました。黒岳山頂直下では斜面の一部が植生ごと崩れ落ち、北海岳山頂付近では多量の雨水によって登山道が削られ、長さ10m深さ20cmほどの溝ができていました(写真)。また愛山渓コースではポンアンタロマ川に架かる鉄製の橋が90cmほどずれましたが、すでに修復済みです。
 いずれも通行に支障が出るほどではありませんでしたが、ふたたび今回の強雨で渡渉等影響が出ることが予想されます。林道状況も含め、登山の際は各関係機関に事前に連絡し新しい情報を入手してください。

 写真:北海岳登山道(7/31)
 このように一度侵食部が出来ると、脆くなったその場所を起点にして侵食は加速度的にすすんでいきます。雲ノ平や赤石川周辺、また沼の原登山道などでは年々侵食がすすみ、1mも深く削られている箇所があり、植生にとってはとても深刻な状況です。侵食のきっかけは雨や雪だけではありません。人本位な歩き方をすれば、脆弱な環境で保たれているバランスはいとも簡単に壊れてしまいます。