登山トンボ

 わずか15分の帰りのリフト、冷たい霧雲に囲まれすっかり冷え切ってしまいました。でもさすがに心得たもので、黒岳ロープウェイの7合目駅舎には世間の季節を無視するかのようにストーブがゴーゴーと勢いよく焚かれ、冷えた体にはその温かさが嬉しく。ストーブ!つい一昨日までの閉口するような暑さが嘘のようです。
 視界を隠す霧雲も、9合目まで登ると雲海となって眼下に広がり山頂は晴天。稜線にはまばらに行き交うトンボの姿。麓からわざわざ避暑のためにやって来たアキアカネです。(いわゆる赤トンボ)じつはこの避暑移動には大きな理由があります。
 それは性成熟を秋まで遅らせること。アキアカネは秋に繁殖し、卵で冬を越します。けれど夏に羽化した成虫があまりに早く産卵しすぎると、冬が来る前に発生がすすみ幼虫になってしまいます。それを避けるために涼しい高山帯で夏を過ごし、生殖休眠をするのだそうです。
 そして成熟した赤トンボが山を降りていく頃、山には紅葉の季節が近づいてきます。それは、もう間もなくのこと。

 写真:アキアカネとチシマアザミ(黒岳8/17)