爪あと

 師走9日目。
 その谷筋を訪れるのは約8ヵ月ぶりのこと。道などない場所。夏は背丈ほどに密生する笹藪と無数のダニに守られた頑強たる要塞。そこを突破するには相当な勇気と覚悟が要求されるのだが、冬になればそんな厄介なアレコレも全部雪が解消してくれる。8ヶ月の間に何か変わったことがあっただろうか?クマゲラの穴、モモンガの樹、傾いていたトドマツの老木・・気になることは沢山ある。
 ヤマブドウの蔓が絡みついているトドマツの樹に、新しいヒグマの爪痕があった。この春最後に訪れたときはなかったはず。近くを探すと、他にも爪痕の付いたトドマツが数本。秋、実ったヤマブドウを食べようと樹に登るヒグマの姿を想像し、にやりとしながら帰路に就く。

 写真:「ヒグマの爪痕と樹脂」
    爪痕から流れた樹脂は、
    かさぶたのように傷跡を保護する役目